出征する15歳の弟へ…血で書かれた日の丸と“必殺”　姉が渡した鉢巻き
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「特攻隊として出動の時あけなさい。それまで絶対あけてはなりません。体に充分気を付けなさいよ。体当りして死ぬも病にて倒るな」と書かれた封筒には、必殺の文字と日の丸が書かれた鉢巻きが入っていた。1944（昭和19）年、15歳だった西川光義（嘉麻市）が海軍予科練習生として出征する時に3歳違いの姉ヤス子から渡されたものだ。文字と日の丸は自らの血を使って書かれていた。

　夜間中学に通っていた西川が海軍予科練習生に志願したのは前年の暮れ。航空兵となり敵艦に体当たりして華々しい戦果を上げることが最高の幸せ、自分が母を守るとの思いで決意した。甲種飛行兵に合格し、大日本国防婦人会などの歓呼の声に送られて晴れがましく鴨生駅を出発した。

　配属先は四国の松山海軍航空隊。海軍軍人精神注入棒で色が変わるほどに尻をたたかれるという荒々しい洗礼を受け軍人生活が始まった。海を見たこともなかった西川は飛び込み台からいきなり海に飛び込まされ驚いた。しかし、そのころ訓練に使う飛行機はもう残されていなかったという。

　西川が体験したのは、目前で繰り広げられた戦闘機の空中戦と敵機の機銃掃射だった。後輩たちが銃撃の犠牲になった。その後、四国南岸に移動し、敵の上陸に備えた地上戦の訓練へと変わった。穴を掘り、爆弾を持って隠れ、通過する敵の戦車に突っ込んで無限軌道（キャタピラー）を破壊するという捨て身の作戦だったが、敵は上陸することなく終戦を迎えた。

　実家に戻った西川が封筒を開けた時、出てきたのが血染めの鉢巻きだった。弟と共に闘い寄り添おうとした軍国少女の複雑な心情が見えてくる。

　戦争体験を語り継いでいる西川が中学生に語った言葉がある。「当たり前は決して当たり前ではない。当たり前でなくなってから気付いたのではもう遅い」。西川が小学生の頃、戦争は大人の兵隊さんの仕事であった。しかし、その数年後、進んで少年兵に志願していた。気付いたら戦争が当たり前になっていた。